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福岡地方裁判所田川支部 昭和34年(ヲ)20号 決定

福岡市大名町三百番地

申立人

福岡国税局長

大蔵事務官

江守堅太郎

当裁判所昭和三十三年(ケ)第二十六号競売事件(債権者株式会社福岡相互銀行、債務者江田一外四名)について右申立人より滞納処分続行承認の決定請求があつたので当裁判所は次のとおり決定する

主文

本件請求を却下する。

理由

申立人の本件請求の事由は、債権者株式会社福岡相互銀行より当裁判所に対し競売手続中止の申立をしたからというにある。

よつて案ずるに滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律第二十五条第三十三条(編注第三十六条の洩れか)にいわゆる任意競売手続の中止とは、法律の定める一定の要件事実のもとにおいて競売手続の進行が不適当と認められる場合に法律上当然もしくは裁判所の訴訟指揮上の裁量によつて生ずる手続の停止を指称するのであつて、例えば商法第三百八十四条第四百三十三条、会社更生法第三十七条第一項の規定がこれである。右法律の規定がない場合には右にいわゆる中止は存在しないのであつて、単に事実上競売手美がはかどらないからという理由で中止することは許されない。

これを本件についてみるに記録によれば競売不動産が債務者江田一外名の共同相続にかかるものとして債権者により代位登記され右物件につき競売開始決定がなされた後、右物件は債務者江田一を除く相続人の相続放棄により右江田一の単独相続にかかる事実が判明したため、当裁判所においては債権者に対し右登記の過誤を補正し、債務者並びに物件の所有者並びに物件の所有者を江田一独りとして本件競売手続を適正に処理するため、債務者に対し然るべき措置を講ずるように命じそれができるまで一時手続を事実上進めなかつたところ、債権者より本件については国の租税債権が優先し、債権者においては競売による実益がないことを理由に本件競売手続の中止を申立たものであつて、以上の事実が前段に説くところの競売手続を中止すべき要件を具備した場合に該当せず、競売裁判所がかかる場合に手続中止の裁判をなすことは許されないことはもとよりである。

しかりとすれば、申立人の本件請求は失当であるからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 高石博良)

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